平成18年度

温泉旅館を「核」としたニュービジネス山と森と食の「大循環」静岡県賀茂郡松崎町 桜田温泉 山芳園(さんぽうえん)吉田新司(よしだしんじ)さん

●山がお金を生まないと人は帰ってこない

 伊豆は温泉の宝庫である。
 しかし、こんな一軒宿の温泉旅館はあまり見かけることはないだろう。
 奥伊豆の、とある静かな集落。眼前には田んぼが、背後には里山林が広がり、まるで里山の原風景を思い起こさせるようにこの旅館を抱きかかえている。
「桜田温泉 山芳園」――。
 旅館の看板がなければ、よくある地主さんの大きな屋敷としか見えない。この地で、旅館業を初めて29年になるのが、
「山芳園」のご主人、吉田新司(よしだしんじ)さんである。
 泊まり客の夕食が一段落した旅館のロビー。
 ご主人の吉田さんは、小さな器に生けられた緑の山草を手に、作務衣(さむえ)姿で現れた。

眼前に田んぼが広がり、背後には里山林が

伝統的なナマコ壁が印象的な「山芳園」のエントランス

「これは、うちの山で採れたモミジガサです。これからの時期、沢山採れるようになりますよ。朝、山で見てきましたから」
 モミジガサが生けられた器は、どうやら竹筒を炭化したものである。
 おひたしや天ぷら、和え物に最適な山菜、モミジガサ。このような山の幸が、この旅館ではお客さんのお膳を賑わしている。
 旅館業は奥さん任せ、本人は、趣味の山仕事に精を出し、最近では炭焼きにハマり、オリジナルの作品ばかり作っているご主人――。吉田さんは自ら「炭にハマった極楽宿六(ごくらくやどろく)」を名乗る。
 よくありがちな「お気楽親父」なのかと思いきや、実はさにあらず。
「昔は『一俵一人工』と言われていました。つまり、山仕事は一人が一日働いたら、一俵の米が稼げたということ。一俵が60キロとして、いくらになります? かつては、それぐらい山仕事が稼ぎになった。だから、山がお金を生み出すようにならないと、人は絶対に山には帰ってこないんです」